序章:神話と歴史は野望の結果 第3話

Author: 遼進 /

 「レムスを助けるために、力を貸してほしい」
 集まった人々を数えるように、ゆっくりと見渡しながらロムルスは言葉を続ける。
 「レムスの罪咎による捕縛ならば、我等は納得するだろう。過失があったのなら、頭を垂れて償いもしよう。だが弟は、己の行動、立ち振る舞いではなく、血筋を咎められ罪人とされた。アムリウス王は、己が国の住人ではない者を道理なく鎖に繋いだのだ」
 七つの丘のひとつ、パラティーノの丘に集まる人々の顔に、夕焼けの黄昏と無数の松明の炎が影を落とす。
 アムリウス王は罪科無い者に兵を向けたのだ。ならば、いつか自分にも向けられるかもしれない。不安げにざわめく群集に向けて、ロムルスは断言する。
 「アムリウスは、いつでもその鎖を我等に向けるだろう!」
 しかし、それは真実ではない。
 彼にはアムリウス王の恐怖心が理解出来ていた。レムスの捕縛は、双子の出自とその扱いに端を発していることを。今更ながら、アムリウス王は双子の生存と、無事成人し、力を得ていることを知ったのだろう。
 だが、ロムルスは過去の妄執の果てに捕らえられた、己の分身とも言える弟を失いたくはなかった。
 レムスの救出は急がなければならない。恐怖に怯えた僭王が、レムスの胸に剣をつきたてる前に。
 幸い、目の前に「力」がある。双子の背丈が葦の草原に埋もれていた幼い日々から培ってきた羊飼いの仲間達との絆。今、双子の為に集まってくれた彼等は、近隣の諸部族にも協力を仰ぎ、一千を越えていた。
 「鎖を断ち切ろう! そして蒙昧なる王に、我等の怒りを見せ付けよう!」
 ロムルスの呼び掛けは、今や一千の咆哮となって草原を怒りで満たす。
 「友人達よ、助力に感謝する!」
 かくして、羊飼いロムルスを先頭に一団は動き出す。
 己の半身を取り戻すため、故郷とも言える都市アルバ・ロンガへ向かって。
 待ち構えるものは、アルバ・ロンガ兵とアムリウス王だけではない。
 己が血統と失われたはずの権利、それらを超克して誕生する、遥か1000年に渡る比類なき国家の誕生の瞬間であったのだ。

■登場人物
 ・ロムルス
  羊飼い。レムスと双子の兄。近隣地域の羊飼いの顔役。
 ・レムス
  羊飼い。ロムルスの双子の弟。
 ・アムリウス
  都市国家アルバ・ロンガの13代目の王。

■用語
 ・都市国家アルバ・ロンガ
  テヴィレ川上流に位置するアルバーノ山地に位置する都市国家。
  テヴィレ河口より南東約30kmの位置する湖のほとりに建国された。
  アムリウス王は13代目。


序章:神話と歴史は野望の結果 第2話

Author: 遼進 /

 -建国王ロムルス-
 神話では、彼が半神半人であったと語られている。
 軍神マールスを父に、都市国家アルバ・ロンガの王女であり女神ウェスタを奉じる巫女レア・シルウィアを母に生誕したロムルスは、双子の兄としてアルバ・ロンガの玉座を継承する筈であった。
 しかし、軍神マールスは試練なく玉座が手渡される事を認めなかった。
 前王プロカスの病死と喪を発するためにアルバ・ロンガ市民の前に姿を現したのは、世継ぎの王女シルウィアではなく、叔父のアムリウスであった。彼は父王を失ったシルウィア王女がプロカス王の魂を弔うために女神ウェスタの巫女として神殿に入ったことを告げると、王女に代わり王位の継承を宣言した。
 巫女は純潔を強いられる。父王の病死を機に、玉座を簒奪した僭王アムリウスは、直系のシルウィアを神殿に幽閉することで自身の未来の安全を買ったのだ。
 かくして王女シルウィアはウェスタ神殿にその生を閉じ込められた。
 しかし4年後、事態は変化する。
 シルウィアが巫女の儀式を休むようになり、その姿を人前に見せなくなったのだ。
当初はその境遇から放置されていたが、やがてある噂が流れ始める。曰く、シルウィアの懐妊である。そもそもウェスタ神殿は男が赴くことができないよう衛兵に出入りを監視されている。ありえない噂話の筈だが、伝え聞いて複雑な面持ちをした僭王アムリウスは、自ら神殿の奥向きに確認に向かう。
 そこで見たものは、その両腕に赤子を二人抱えて母乳を与えているシルウィアの姿だった。
 神話では、テヴィレ河畔で水浴びをしていたシルウィアの姿に心動かされたマールス神が、彼女を眠りに誘い、その間に子を成したと伝える。一方で歴史は、彼女と接触できる男は僭王アムリウスのみであったことから、彼こそ双子の父であったとも語っている。
 双子の赤子はシルウィアの手から奪われた。
 僭王アムリウスは双子とシルウィアの死刑を命じるが、自身の娘アント王女の身を挺した懇願により指示を撤回した。
 翌日、双子は生きたまま籠に入れられてテヴィレ川に流され、その行く末を天に委ねられた。
シルウィアは巫女の身で純潔の戒律を犯したことを罪に問われ、牢獄に幽閉され廃棄王女となった。
 こうして物語は終焉を迎える筈であった。

■登場人物
 ・ロムルス
  羊飼い。レムスと双子の兄。近隣地域の羊飼いの顔役。
 ・レムス
  羊飼い。ロムルスの双子の弟。
 ・アムリウス
  都市国家アルバ・ロンガの13代目の王。
 ・レア・シルウィア
  都市国家アルバ・ロンガの12代目の王プロカスの世継ぎの王女。
  双子の兄弟ロムルスとレムスを産み落とすが、アムリウス王に
  奪われ、テヴィレ川に捨てられた。
 ・アント
  都市国家アルバ・ロンガの13代目の王アムリウスの娘。

■用語
 ・都市国家アルバ・ロンガ
  テヴィレ川上流に位置するアルバーノ山地に位置する都市国家。
  テヴィレ河口より南東約30kmの位置する湖のほとりに建国された。
  アムリウス王は13代目。
 ・軍神マールス
  農耕と戦の神。


序章:神話と歴史は野望の結果 第1話

Author: 遼進 /


 ただの羊飼いとして生きて、羊飼いのまま死んでいく。そんな愚直な一生を、ロムルスは双子の弟レムスと終えるのだろうと思っていた。
 テヴィレ河口の緑深い七つの丘を故郷と定め、毎日羊を追って過ごす変わらない日々の繰り返し。幼いころからレムスと共に、周辺の羊飼いや部族の中で頭角を現し、いつしか顔役として慕われるようにもなった。
いつも周囲には仲間の羊飼いが共にあり、そろそろ気の利いた従順な娘を妻に迎え、生まれた子供に羊の追い方を教えながら、老いていく。
 静かな、それでも柔らかな幸せに満ち足りた人生だ。
 それは、突然に奪われてしまった。
 「レムスがアルバ・ロンガの兵に連れていかれた」
 仲間の羊飼いから話を聞いたのは、近隣の放牧地域で起きた仲間同士のいさかいを、顔役として仲裁した帰りの事だった。
 アルバ・ロンガ兵は訳も告げず双子2人の姿を探し、名乗り上げたレムスを叩きのめすと引き上げたらしい。
 テヴィレ川上流の山間部にある都市国家アルバ・ロンガは、アムリウス王の統治する古都市だ。ロムルスも、レムスと共に商いに訪れることはあるが、儲けを得ることもない全うなものだ。正直、何の咎を問われているのか、皆目検討がつかなかった。
 親父が昔話を語るまでは。
 いや、今となっては養父であったことも明かされたのだが。

■登場人物
 ・ロムルス
  羊飼い。レムスと双子の兄。近隣地域の羊飼いの顔役。
 ・レムス
  羊飼い。ロムルスの双子の弟
 ・アムリウス
  都市国家アルバ・ロンガの13代目の王

■用語
 ・都市国家アルバ・ロンガ
  テヴィレ川上流に位置するアルバーノ山地に位置する都市国家。
  テヴィレ河口より南東約30kmの位置する湖のほとりに建国された。
  アムリウス王は13代目。

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