第1章:シチリア騒乱 第11話

Author: 遼進 /

 ミラッツォの戦いを前に傭兵団マメルティニが描いた謀略では、布陣したシラクサ軍の後方からカルタゴ軍が急襲、混乱したところをマメルティニが挟撃をかけて殲滅する予定であった。
 しかし、ミラッツォ郊外にシラクサ軍が布陣しても、一向にカルタゴ軍は姿を見せない。焦りを見せるマメルティニは、カルタゴ軍への急使を放つが、空気を読まないシラクサ軍は攻撃を開始する。
 傭兵団マメルティニは、やむを得ずシラクサ軍との交戦を単独で開始することとなった。

 故郷を略奪され、踏み躙られ続けたシラクサ軍は、怒りと復讐という味付けによって非情に士気高く、ひるがえって仕掛けた謀略が空振りに終わったマメルティニは終始混乱気味であった。
 はやり気味のシラクサ軍を抑えつつも、本陣にて敵陣を観察していたヒエロン将軍は首を傾げた。
 「やつら、どうも反応が鈍いな」
 「所詮、荒くれ者どもです。このようなものでしょう」
 「薄気味悪いな。伏兵がいるかも知れん。念のため周辺を確認させよ」
 敵陣の動きの悪さが、援軍ないし伏兵の動きを待っている為なのではと訝ったヒエロン将軍は、斥候を四方に放つ。しかし、結果を待つことなく攻勢を続け、斥候が戻る前にマメルティニを打ち破った。
 「追撃せよ! 奴らに生きて再びメッシーナの地を踏ませるなっ!」
 「おうっ!」
 一路メッシーナへ向けて壊走するマメルティニに対し、ヒエロン将軍は騎馬隊を先頭に追撃を開始した。
 しかし、追撃中に斥候がヒエロン将軍の下へと戻ってきた。
 「将軍! 後方よりカルタゴ軍が迫っておりますっ!」
 「しまったっ! 奴らの狙いはそれか。しかし、タイミングが悪いところを見ると、マメルティニの奴らもカルタゴに一杯食わされたな」 
 ヒエロン将軍は即座に軍を反転し、カルタゴ軍に向けて布陣する。
 シラクサ軍がマメルティニの追撃を諦め、反転してカルタゴ軍に向け布陣した事を確認すると、カルタゴ軍は西方の支配地域へと軍を引いた。
 「今回は、ここまでだ。撤収するぞ」
 「ここまで来て引き返すのですか!? このままメッシーナへ向かうべきです!」
 「分からないのか。メッシーナを攻めれば、カルタゴ軍がまた後方から襲ってくるぞ。その備えが出来ていない以上、進撃は無駄だ」
 ヒエロン将軍も苦々しい思いを隠さずに撤退を宣言した。

■登場人物
 ・ヒエロン将軍
  シラクサ軍を統括する将軍。

■用語
 ・傭兵団マメルティニ
  イタリア半島のカンパニア人によって結成された傭兵団。シラクサの前僭主
  アガトクレスによって雇用されたが、彼の病死後にシラクサ政府によって
  解雇された。
 ・シラクサ
  シチリア島南東部に位置する都市国家。
 ・カルタゴ
  地中海の覇者として、広大な通商路を開拓し、そこを通って富や人が行き来
  する海運国家。カルタゴは商業の中心地でもあった。

第1章:シチリア騒乱 第10話

Author: 遼進 /

 この紀元前269年に行われたマメルティニ討伐戦は、結論から示すと失敗に終わった。

 ヒエロン将軍に率いられたマメルティニ討伐軍は、意気軒昂にシラクサを進発し、一路、マメルティニの本拠地である都市メッシーナへと北進した。しかし、その進路は先遣していた偵察部隊からの報告により変更されることとなった。
 「ヒエロン将軍! マメルティニによる略奪部隊が北西部で確認されました!」
 その一報は、ヒエロンには無視できなかった。進軍後の後方を脅かされる可能性と、救援に行かなかった事によるシラクサ市民からのヒエロンへの非難の声。ヒエロンは転進せざるをえなかった。ヒエロンは行く先の変更を軍へと告げる。
 「我らは救援のゆくぞ!」
 「おおっ!!」
 討伐軍は進路を北西へと向けた。

 シラクサ軍転進の報は、都市メッシーナに駐留するマメルティニにも報告される。
 「やつら、罠に嵌りましたぜ」
 「これでヒエロンも終わりよ。シラクサに俺らの怒りをぶつけてやるぜ」
 マメルティ傭兵団も部隊を出発させる。彼らの進路はメッシーナ西部の都市ミラッツォ。マメルティニがシラクサのヒエロン将軍を陥れる為に仕掛けた罠は、シチリア西部を支配するカルタゴとの共謀による、シラクサ軍の挟撃であった。
 マメルティニはシラクサの動きを察知し、カルタゴ軍の支援を取り付けていたのだ。その為、カルタゴ軍に近い西方地域にシラクサ軍をおびき寄せる必要があったのだ。囮としてシラクサ北西部地域を荒らしまわったマメルティニ別働隊は、見事にその役目を果たした。

 ヒエロン将軍率いるマメルティニ討伐軍は、囮部隊を追撃し、シラクサ北西部を経由して、都市ミラッツォでマメルティと対峙した。
 ヒエロンはまだ罠の存在を知らない。ミラッツォ郊外にて対峙する傭兵団マメルティニを騎馬から見下ろし、振り上げた手を勢い良く振り下ろす。
 「攻撃せよっ!」
 ミラッツォの戦いが始まった。

■登場人物
 ・ヒエロン将軍
  シラクサ軍を統括する将軍。

■用語
 ・傭兵団マメルティニ
  イタリア半島のカンパニア人によって結成された傭兵団。シラクサの前僭主
  アガトクレスによって雇用されたが、彼の病死後にシラクサ政府によって解雇
  された。
 ・シラクサ
  シチリア島南東部に位置する都市国家。
 ・カルタゴ
  地中海の覇者として、広大な通商路を開拓し、そこを通って富や人が行き来
  する海運国家。カルタゴは商業の中心地でもあった。


第1章:シチリア騒乱 第9話

Author: 遼進 /

 都市国家シラクサの将軍として軍を統括する事となったヒエロン将軍は、旧主であるエピロス王ピュロスとカルタゴとの戦いにより荒廃したシチリアの治安回復に尽力する事となる。

 ピュロス王のシチリア撤退後、シチリア島西部にその侵略基盤を回復させたカルタゴ軍のさらなる東進をたくみに排除しながら、シラクサ周辺地域の秩序を次第に回復させていくヒエロン将軍の声望は、市民の間で次第に高まりつつあった。シラクサの人々の目には、元侵略者の手先であったという過去は、既に忘却の彼方へと過ぎ去っていた。

 ヒエロン将軍の立場を決定的にしたのは、それから6年後の紀元前269年の事である。
 既に混乱から回復したシラクサに対して、シチリア北東部を勢力下とした傭兵団マメルティニによる略奪が激化したのだ。
 傭兵団マメルティニはシラクサ北部の田園地帯を襲撃し、略奪と暴行、虐殺を繰りかえした。惨劇の凶報は、直ちにシラクサ議会へともたらされる。カルタゴによるシチリア侵略と共に、最も悩ましい問題の一つと言えるマメルティニへの対処であるが、この時のシラクサ議会は即座にヒエロン将軍へと一任する。
 シラクサ議会はこの時既に、義父レプティヌスの支援を元に政治的地盤を確立させ、純軍事的に全軍を掌握しているヒエロン将軍の行動を追認する機関と化していたのだ。

 シラクサ内部に敵はなし。しかしながら外部に目を向けると強大なカルタゴと無法者集団である傭兵団マメルティニと、厄介な敵ばかりが存在する感があるが、ともかくヒエロン将軍は出陣した。

■登場人物
 ・ヒエロン将軍
  元エピロス王ピュロス旗下の将軍であったが、シラクサ市民の要請に
  答えてシラクサに残った将軍。義父レプティヌスは資産家で、シラク
  サ議会に強い力を持っていた。

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