ミラッツォの戦いを前に傭兵団マメルティニが描いた謀略では、布陣したシラクサ軍の後方からカルタゴ軍が急襲、混乱したところをマメルティニが挟撃をかけて殲滅する予定であった。
しかし、ミラッツォ郊外にシラクサ軍が布陣しても、一向にカルタゴ軍は姿を見せない。焦りを見せるマメルティニは、カルタゴ軍への急使を放つが、空気を読まないシラクサ軍は攻撃を開始する。
傭兵団マメルティニは、やむを得ずシラクサ軍との交戦を単独で開始することとなった。
故郷を略奪され、踏み躙られ続けたシラクサ軍は、怒りと復讐という味付けによって非情に士気高く、ひるがえって仕掛けた謀略が空振りに終わったマメルティニは終始混乱気味であった。
はやり気味のシラクサ軍を抑えつつも、本陣にて敵陣を観察していたヒエロン将軍は首を傾げた。
「やつら、どうも反応が鈍いな」
「所詮、荒くれ者どもです。このようなものでしょう」
「薄気味悪いな。伏兵がいるかも知れん。念のため周辺を確認させよ」
敵陣の動きの悪さが、援軍ないし伏兵の動きを待っている為なのではと訝ったヒエロン将軍は、斥候を四方に放つ。しかし、結果を待つことなく攻勢を続け、斥候が戻る前にマメルティニを打ち破った。
「追撃せよ! 奴らに生きて再びメッシーナの地を踏ませるなっ!」
「おうっ!」
一路メッシーナへ向けて壊走するマメルティニに対し、ヒエロン将軍は騎馬隊を先頭に追撃を開始した。
しかし、追撃中に斥候がヒエロン将軍の下へと戻ってきた。
「将軍! 後方よりカルタゴ軍が迫っておりますっ!」
「しまったっ! 奴らの狙いはそれか。しかし、タイミングが悪いところを見ると、マメルティニの奴らもカルタゴに一杯食わされたな」
ヒエロン将軍は即座に軍を反転し、カルタゴ軍に向けて布陣する。
シラクサ軍がマメルティニの追撃を諦め、反転してカルタゴ軍に向け布陣した事を確認すると、カルタゴ軍は西方の支配地域へと軍を引いた。
「今回は、ここまでだ。撤収するぞ」
「ここまで来て引き返すのですか!? このままメッシーナへ向かうべきです!」
「分からないのか。メッシーナを攻めれば、カルタゴ軍がまた後方から襲ってくるぞ。その備えが出来ていない以上、進撃は無駄だ」
ヒエロン将軍も苦々しい思いを隠さずに撤退を宣言した。
■登場人物
・ヒエロン将軍
シラクサ軍を統括する将軍。
■用語
・傭兵団マメルティニ
イタリア半島のカンパニア人によって結成された傭兵団。シラクサの前僭主
アガトクレスによって雇用されたが、彼の病死後にシラクサ政府によって
解雇された。
・シラクサ
シチリア島南東部に位置する都市国家。
・カルタゴ
地中海の覇者として、広大な通商路を開拓し、そこを通って富や人が行き来
する海運国家。カルタゴは商業の中心地でもあった。
第1章:シチリア騒乱 第11話
Author: 遼進 /
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