序章:神話と歴史は野望の結果 第6話

Author: 遼進 /

 ロムルスは思索の中で一人、歩き続ける。
 パラティーノの丘を囲む城壁のために切り出された岩石が、月明かりの中で深い陰影を刻む。その岩石と影が彩る道の中、一人静かに歩むその姿は孤独であることを強いられた男の、一抹の寂寥を纏っていた。
 それは、三千の民を背負うことを求められた王の宿命か。
 それとも、己の半身と頼んできた最愛の弟を切り捨てた罪の故か。
 離れず付き従う影のごとく、陰鬱な思いがロムルスを苛み続ける。
 いつ間違ったのか、如何すべきであったのかと。
 血を吐くような問い掛けに答える者はない。
 天空高く輝く月を見上げ、歩みを止めたロムルスに、ただ青白い光のみがふりかかっていた。


 アルバ・ロンガでの戦いは、ロムルスが弟レムスを奪還し、アムリウス王を殺害することで、夜が明ける間も無く終結した。しかし、その後の統治について問題が持ち上がる。
 つまり、誰が王権を掌握するのかである。
 実力で己の正義を示し、血統の確かさからも、アンリ王女はロムルスにアルバ・ロンガの統治を依頼するが、ロムルスはこれを強く拒絶した。レムスもロムルスを説得したが、ロムルスはアルバ・ロンガの統治を王女アントに委ね、逃げるように軍勢を引いた。
 ロムルスは怯えていたのだ。アムリウスを殺害した時のレムスの眼に宿った暗い輝きに。
 しかし、アルバ・ロンガを急襲したロムルス達の勢力は、今や周辺地域に一つの勢力として認識されてしまっていた。
 彼らの周囲には、彼ら以外のラテン人勢力があり、他にもエルトリア人、ギリシア人勢力が点在している。
 ロムルスは仲間たちを守るため、又、レムスの強い要求から、結局自らの国を作ることになる。


 ロムルスとレムスの兄弟、彼らのために集まった男たち一千、そしてその家族二千。
 彼らは七つの丘に戻り、国作りを始める。
 それは、ロムルスとレムスの双子に課せられた最後の試練の幕開けであり、偉大な千年帝国の最初の贄となる事を、彼らは知らなかったのだ。


■登場人物
 ・ロムルス 
  羊飼い。レムスの双子の兄で、近隣地域の羊飼いの顔役。
  アルバ・ロンガ王アムリウスとシルウィアの間に生まれ、

  生後間も無くテヴィレ川へ流された。
 ・レムス
  羊飼い。ロムルスの双子の弟。
 ・アムリウス
  都市国家アルバ・ロンガの13代目の王。
  ロムルスとレムスの双子に殺害された。
 ・レア・シルウィア
  都市国家アルバ・ロンガの12代目の王プロカスの世継ぎの王女で、

  双子の兄弟ロムルスとレムスの母。
  アムリウスに牢獄に閉じ込められ、獄死した。
 ・アント
  都市国家アルバ・ロンガの13代目の王アムリウスの娘。


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