傭兵団マメルティニの使者から申し込まれた要請は、元老院議会の開催前に伝えられていた。もちろん、有力貴族に限った話ではあったが。
それでも、議事堂にて執政官ゲルグスから告げられたマメルティニの要請は、元老院議員たちに困惑とざわめきを持って迎えられた。
「マメルティニとは過去、レッジョ市民を悲痛な状況に陥れた無法者の集団のことである。諸君らはそれをお忘れか? 我々の軍団は奴らと戦い、海の向こうに追い払ったのだ! 関わりあう必要はない!」
「我々とて、エピロス王ピュロスが残していった傭兵どもの討伐が終わったばかりだ。ここで出兵する余裕があるのか!?」
共和制ローマもこの時期、平和と安寧の中にあった訳ではなかった。イタリア半島の覇権を争ったエピロス王ピュロスとの激戦は、地の利を生かした消耗戦に引き込んだ挙句、なんとか粘り勝ちを収めた。
だが、戦後暫くしてから職にあぶれた傭兵らが結集し、ローマへの反乱を企てた。その討伐が前年に漸く終わったばかりであったのだ。
「助けを求めて来ているのだ。しかも過去の経緯を忘れて同盟したいと言っているのだ。ここはローマの度量を見せるべきではないか?」
「そういうことではない! 良く考えたまえ。メッシーナはどこにある? 我々が誇るローマの街道も、海の上には敷かれていないのだが、いったいどうやってメッシーナまで赴くのだ?」
元老院を構成する有力貴族たちはその立場を省みて、冷静に、そして激しく、その思うところを口にする。しかし、普段は実質的な統治機関として諸問題を解決する賢者たちが、この問題に対して決断を出すことが出来なかった。
問題はなにか。
共和制ローマは法に重きを置く国家であった。
その精神において、無法者集団でもある傭兵団マメルティニとの同盟は、許容し難い雰囲気があったのだ。
また、シチリア島の都市メッシーナに渡るには、対岸のレッジョから海を渡る必要がある。しかし、その為の手段がローマにはなかった。建国以来、周囲の氏族と戦い続け、最終的には勝利を手にしてきたローマではあったが、その軍勢は海を渡ったことがない。実質、軍船を所有していないのである。
■登場人物
・執政官ゲルグス
紀元前265年当時の執政官の一人。フルネームはクィントゥス・ファビウス・マクシムス・グルゲス。
■用語
・傭兵団マメルティニ
イタリア半島のカンパニア人によって結成された傭兵団。シラクサ北東の都市メッシーナを拠点とし、シラクサと敵対している。
・シラクサ
シチリア島南東部に位置する都市国家。
・都市レッジョ・ディ・カラブリア
シチリア島メッシーナの対岸に位置する、イタリア半島の港町。紀元前270年、共和制ローマは傭兵団マメルティニと戦い、その支配権を奪った。
第2章:第一次ポエニ戦争 第2話
Author: 遼進 /
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