第2章:第一次ポエニ戦争 第5話

Author: 遼進 /

 市民集会の開催と、その議題に関する情報は、フォロ・ロマーノから速やかに発信され、数日中にはローマ市内全域に知られ渡った。
 本来行われる予定であった、来年の執政官候補者の選定と共に、元老院及び執政官の作成した緒法案の承認についてはいつものことであったが、『シチリア島北東の都市メッシーナに対する同盟と支援に関する議題』の異質さは、ローマ市民の間に疑問が広がっていた。
 同盟し、支援することに対する「承認」ではなく、「議題」であることが意味することを計りかねていたが、その疑問も直ぐに解消された。
 アッピウス・クラウディウス・カウデクスとその息がかかった者達が、市民達に対して活動を始めたのだ。

 アッピウスとクラウディウス一門の積極的な世論操作は、ローマ市民の正義感を利用して、同盟と支援の承認へと向けた雰囲気を形成することに成功した。そして、積極的に市民の前で訴えることで、アッピウスの名を印象付けることにも成功した。
 市民集会は、元老院から提示されたシチリアの都市メッシーナとの同盟と、傭兵団マメルティニの支援を承認した。この支援は、翌年の執政官が軍団を率いて行われる事となる。
 翌年の執政官に選出されたアッピウスは、自らがシチリア島へ赴くことを既に決意していた。
 
 共和制ローマは、都市メッシーナとの同盟を決定し、傭兵団マメルティニに対する支援として、執政官率いる軍団の派遣を決定した。
 その情報は、シチリア島の各勢力にも伝わっていく。傭兵団マメルティニとの対決を決意していたシラクサの僭主ヒエロン、そしてシチリア島に対する野望を隠さないカルタゴ。ローマを引き込むことで生き残りをかける傭兵団マメルティニ。無法者達が、ただ生き残る為に打った策謀は、シチリア島に覇を唱えようとする者達の思惑を超え、地中海を中心とする国々の歴史にも影響を与えることとなる。
 後に「ポエニ戦争」と呼ばれる長い戦いが、今まさに始まろうとしている。

■登場人物
 ・アッピウス・クラウディウス・カウデクス
  ローマ貴族の名門、クラウディウス一門の直系。紀元前264年、執政官に就任することになる。

■用語
 ・傭兵団マメルティニ
  イタリア半島のカンパニア人によって結成された傭兵団。シラクサ北東の都市メッシーナを拠点とし、シラクサと敵対している。
 ・シラクサ
  シチリア島南東部に位置する都市国家。
 ・カルタゴ
  地中海の覇者として、広大な通商路を開拓し、そこを通って富や人が行き来
  する海運国家。カルタゴは商業の中心地でもあった。


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