無法者集団が牛耳る都市メッシーナとの同盟に対するローマ元老院の嫌悪感と、シチリア島に軍団を安全に渡す為の手段の欠如。しかし、共和制ローマが外征をしない為の理由としては不十分であったのかもしれない。
共和制ローマには、メッシーナを占拠しているマメルティニがただ滅んでいくのを放置出来ない訳も存在していた。
「今のシチリアは、昔のようにシラクサが眼を光らせていた時代とは違うのだ。不埒な傭兵どもは、シラクサから身を守るために過去敵対した我らに頭を下げてきた。ローマが奴らを見放せば、次はカルタゴへ向かうぞ」
「カルタゴはシチリア島の覇権を得るためならば、何でもしよう。ならば、その行く末は眼に見えている」
「メッシーナがカルタゴに奪われる!」
「奴らの船と技術を持ってすれば、もはやシチリア島からローマに橋がかかったも同然じゃろう」
地中海に覇を唱える海運国家カルタゴ。
彼らがシチリア島を押さえることは、地中海を闊歩する彼らの補給拠点が、その交易路のど真ん中に出来ることを意味する。その拠点は、ローマの目と鼻の先に等しい位置となるのだ。
その未来が実現したとき、共和制ローマの発展は終焉を迎えることとなるだろう。イタリア半島を制覇したとはいえ、その北方は広大な山岳地帯と、未開の蛮族が闊歩する地域である。容易に拡大することは不可能なのだ。
それゆえに、シチリア島でこれ以上カルタゴの勢力を拡大させる訳にはいかなかった。
「提案がある!」
行き詰まり、決断を出せない重く圧し掛かる沈黙を、力漲る声が元老院議事堂内を切り裂いた。
立ち上がるは、優雅さの中に覇気と傲慢さを隠し切ることの出来ない壮年。ローマきっての貴族クラウディウス一門の直系であるアッピウス・クラウディウス・カウデクスであった。
「どうやら意見も出尽くし、何が問題なのかも把握できたと思われる。しかし、見識豊かな諸兄らをもってしても決断しかねるこの状況を放置すれば、悪戯に時がうつろいゆくばかりであろう」
周囲の反応を見るが如く、ゆっくりと、また威厳を払いながら議員らを見回す姿は、「熱」そのものであった。
「なれば、ここは市民集会へ決断を託すべきであろう! ローマ市民の民意を持って、我がローマの行く末を決めようではないか!」
■登場人物
・執政官ゲルグス
紀元前265年当時の執政官の一人。フルネームはクィントゥス・ファビウス・マクシムス・グルゲス。
・アッピウス・クラウディウス・カウデクス
ローマ貴族の名門、クラウディウス一門の直系。紀元前265年当時、翌年の執政官の座を狙って活動していた。
■用語
・傭兵団マメルティニ
イタリア半島のカンパニア人によって結成された傭兵団。シラクサ北東の都市メッシーナを拠点とし、シラクサと敵対している。
・シラクサ
シチリア島南東部に位置する都市国家。
・都市レッジョ・ディ・カラブリア
シチリア島メッシーナの対岸に位置する、イタリア半島の港町。紀元前270年、共和制ローマは傭兵団マメルティニと戦い、その支配権を奪った。
第2章:第一次ポエニ戦争 第3話
Author: 遼進 /
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